まずは、現象をしっかり見てみましょう

みなさん、こんにちは。あきらです。

今日は、この連載の最初の記事をお届けします。タイトルを見ていただいて、ちょっとドキッとした方もいらっしゃるかもしれませんね。「なぜ予報を無視して死にに行くのか?」——そんなストレートな言葉を選んだのは、この「謎」が本当に不思議で、でもとても身近な問題だからです。

みなさんは、こんなニュースを見たことはありませんか? 天気予報で「大荒れの天気」「暴風雪注意報」が出ているのに、山へ登ってしまい、結局救助を呼ぶことになってしまう……。特に日本海側の大山や、富士山のような山で、こんなことが繰り返されているんです。

たとえば、2026年1月25日の大山の事例¹。鳥取県の大山(標高1,729m)で、2つのグループ合わせて8人が登山をしていました。予報では冬型の強い気圧配置で、強風と視界不良が予想されていたのに、日帰りで登頂を目指したそうです。頂上近くでホワイトアウト(真っ白な吹雪で何も見えなくなる状態)になって下山できなくなり、山頂の避難小屋に避難。20〜30代の男性1人が低体温症の疑いを訴えて、警察に救助を要請しました。幸い、天候が回復して全員自力で下山できたんですが、「もしもう少し遅れていたら……」と思うと、ぞっとしますよね。

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(original)

なぜ、こんなに明確な警告が出ているのに、人は山へ向かってしまうのでしょうか? これはただの「無知」や「運が悪かった」だけじゃないんです。人間の心の奥深くにある何か——それが、この連載で一緒に掘り下げていきたい「謎」です。

山岳遭難は、年々増え続けています。警察庁の最新データ²を見てみると、令和7年(2025年)の夏期(7〜8月)だけでも、発生件数が808件、遭難者数が917人。死者・行方不明者は54人でした。これは前年より大幅に増えていて、過去最多を更新したんです。

年末年始(2025年12月29日〜2026年1月3日)も、53件・69人で、これも統計が残る2003年以降で最多³。死者は4人、負傷者は23人。登山届を出していた人はわずか9人だけだったそうです。

ここに、簡単な表をまとめてみました。

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(警察庁「令和7年夏期における山岳遭難の概況」などより)

見ての通り、遭難は減るどころか増えています。

特に、天候が絡むケースが全体の30〜40%を占めると言われています。直接「悪天候」が原因とされるのは1〜2%程度ですが、視界不良で道に迷ったり、滑落したり、低体温症になったり……その連鎖のきっかけになることが多いんです。

そして、予報を無視した行動が、この連鎖をスタートさせてしまう。なぜそんなことが起きるのか? ここが本当に不思議なんです。

日本海側の高山が特に危ない理由

大山や富士山、日本海側の高山域でこの現象が目立つのは、理由があります。

まず、山の天気が変わりやすいんです。麓は晴れていても、頂上は猛吹雪——そんな「山岳微気候」の影響が大きい。予報は「山全体」をカバーしきれない部分があるので、「自分は大丈夫かも」と過小評価しやすくなるんです。

それに、これらの山はアクセスがいいんですよね。大山は観光地としても人気で、富士山は世界遺産。初心者やライトな登山者が「ちょっと登ってみよう」と軽く入ってしまう。文化的な面もあって、日本人は昔から「山は神聖なもの」「登ることで何か得られる」という思いが根強いのかもしれません。

X(旧Twitter)を見ていても、「雪予報が出たら逆に登りたくなる」「今まで大丈夫だったから」みたいな声がちらほらあります⁴。これって、すごく人間らしい反応ですよね。でも、それが命取りになることもある。

統計をもう少し深掘りしてみると……

前回お見せした表に、もう少し肉付けをしてみましょう。警察庁の資料から、最近の傾向をまとめるとこんな感じです。

まず、令和7年夏期(7〜8月)の遭難が過去最多の808件・917人だったこと。これは前年比で件数+148件、遭難者+181人と、かなりの増加です⁵。

そして、目的別に見ると「登山」が742人(80.9%)と圧倒的。ハイキングや山菜採りもいますが、やはり本格的に山に入る人が一番多いんです。

態様別(どういう状況で遭難したか)では、

と続きます。ここで注目したいのが「道迷い」と「転倒」がトップ2を占めている点です。

悪天候そのものが直接の原因とされるケースは少ないのですが、視界不良や強風・雪で「道に迷う」「足を滑らせる」→そこから低体温症や疲労が連鎖するパターンがとても多いんです⁶。

年齢別で見ると、もっと衝撃的です。

917人のうち、

と、40代以上79.8%(全国傾向)、50代以上60%超を占めています。死者・行方不明者54人のうちも、中高年層が大半を占めている傾向です⁷。

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(original)

さらに、コロナ禍以降のデータ(2021〜2023年、長野県を中心に分析)を見ると、全国的な傾向として「道迷い」は少しずつ減っているのに、「転倒・滑落」「病気・疲労」が増えていることがわかります⁸。

なぜ道迷いが減っているのか? それはスマートフォンや地図アプリの普及が大きいんです。GPSで現在地がわかるようになり、昔より道に迷いにくくなった。でもその代わり、体力やバランスが落ちた中高年の方が、岩場や雪道で転んでしまうケースが増えている……。

つまり、技術が進んだのに、遭難は減らない。むしろ形を変えて増えているんですよね。

年末年始のデータも、冬山の怖さを改めて教えてくれます⁹。

令和8年(2025年末〜2026年始)の53件・69人(死者4人、行方不明2人、負傷23人)は、過去5年で最多。

警察は延べ311人を投入し、ヘリコプターを4回も出動させたそうです。

この時期は天候が急変しやすいのに、登山届を出していた人がほとんどいなかったというのも、気になります。

ここで、少し考えてみてほしいこと

「自分は大丈夫」と思って山に行く人たちは、きっと予報を見て「今日はちょっと危ないけど、行けるかも」と思うのでしょう。

でも統計を見ると、そういう「ちょっと」の積み重ねが、毎年数百人もの人を危険にさらしているんです。

なぜ、明らかな警告を前にしても「行ってしまう」のか?

これはもう、単なる「判断ミス」じゃなくて、人間の脳や心の仕組み、社会の空気、文化的な何か……いろんなものが絡み合っている「謎」なんです。

たとえば、

これらを一つずつ、丁寧に解きほぐしていくのが、この連載の目的です。

次回からは、心理学の章に入っていきます。過度楽観バイアスがどうやって命を奪うのか、具体的な事例や研究を交えながらお話ししますね。

みなさんは、どう思いますか?

「自分だったら、予報が悪かったら絶対行かない」と思いますか?

それとも、「いや、状況によっては……」と、少し心が揺らぐ部分があるでしょうか?

この小さな揺らぎが、まさに「謎」の入り口なんです。

次回の[MA02]で、脳の仕組みから一緒に探っていきましょう。

お付き合いいただけると嬉しいです。


¹ 鳥取県大山遭難事例(2026年1月25日):日本海テレビNEWS NNNほか報道より。

² 警察庁「令和7年夏期における山岳遭難の概況」(2025年9月発表)。

³ 日本経済新聞(2026年1月17日)「年末年始の山岳遭難最多 死者4人」。

⁴ X上の関連投稿分析(登山者側の声)。

⁵ 警察庁「令和7年夏期における山岳遭難の概況」(令和7年9月16日)

⁶ 同上、態様別内訳より。

⁷ 同上、年齢層別集計より。

⁸ 独立行政法人日本スポーツ振興センター国立登山研修所「2021〜2023年の長野県山岳遭難データによる山岳遭難の実態」(2025年7月31日)

⁹ 警察庁「年末年始における山岳遭難に係る警察措置について」(令和8年1月16日)


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